英雄レトリウスのおはなし

※5000年前のエテーネ王国の各地にある石碑に書いてある英雄レトリウスに関するお話です。

第一節

天の神よ地の人よかの者をたたえよ。
ここに語られるはエテーネ建国王たる英雄
レトリウスのいさおしの第一節。
マデ氏族の若者レトリウスは
成人の儀である獣の牙折りに挑むにあたり
獣の王ムザーグを狩らんと欲した。
ムザーグは岩山のごとき巨体の魔獣である。
誰もが無謀な試みだとあさわらったが
レトリウスは己の知恵と勇気を信じていた。
ひと月後……誰もがレトリウスの無残な死を
ウワサしあう頃若き勇士は
見事獣の王を討ち果たし、その牙を持ち帰った。
これはレトリウスの最初のいさおし。
誰も思い描かぬ夢を見てそれをかなえる。
英雄たる者の資質はここに示された。


第二節

天の神よ地の人よかの者をたたえよ。
ここに語られるはエテーネ建国王たる英雄
レトリウスのいさおしの第二節。
レトリウスには無二の親友がいた。
名はキュレクス。常にレトリウスと共にあり
その知恵とチカラを友のために尽くした。
放浪者であったキュレクスは旅の途中
行き倒れているところをレトリウスに救われ
マデ氏族の集落で過ごすことになった。
滞在の間レトリウスとの友情を深めた彼は
やがてこの地に根を下ろし友のために
己がチカラを振るうことを決意するようになる。
キュレクスの知恵はマデ氏族に多くの恵みを
もたらすことになった。かような友を得たことも
またレトリウスの英雄たる証と言えよう。


第三節

天の神よ地の人よかの者をたたえよ。
ここに語られるはエテーネ建国王たる英雄
レトリウスのいさおしの第三節。
マデ氏族の長となったレトリウスは
ティプローネ高地に巣食う毒竜ガズダハムを
氏族の総力を挙げて討つことを決意した。
かの毒竜を倒しティプローネ高地を得られれば
くめど尽きぬ水源と豊かな狩場を手に入れられ
氏族の繁栄は約束されるがゆえに。
キュレクスが予言した通りの大雨の日に
討伐は決行された。カズダハムの発する毒の霧は
降りしきる雨に流されうすらいだ。
討ち手の先頭に立つレトリウスの槍が
カズダハムの心臓をつらぬきマデ氏族は
ついにこの地に覇を唱える一歩を踏み出した。


第四節

天の神よ地の人よかの者をたたえよ。
ここに語られるはエテーネ建国王たる英雄
レトリウスのいさおしの第四節。
ある時レトリウスはケミル氏族という小勢力を
旗下に取り込んだ。彼らは錬金術という
物を作り変える秘術をあやつる人々だった。
他氏族からうとまれ恐れられていた彼らを
新たなチカラとして手厚く遇したのは
レトリウスの器の大きさを示すものである。
ケミル氏族の中でも長の息子ユマテルは
万物の理に通じるとまでいわれる錬金術師で
その術によりマデ族の生活は格段に向上した。
神知の放浪者キュレクスと大錬金術師ユマテル。
ふたりはやがてレトリウスの双翼と
呼ばれるようになっていくのだった。


第五節

天の神よ地の人よかの者をたたえよ。
ここに語られるはエテーネ建国王たる英雄
レトリウスのいさおしの第五節。
危険な魔物を討ち、他氏族との戦争を勝ち抜き
マデ氏族の長レトリウスの版図はすでに
国と呼ばれるまでに大きくなっていた。
大エテーネ島に住まう諸氏族はことごとく
レトリウスの支配に服し、その威勢は
レンダーシア全土に響くまでとなった。
レトリウスの武勇キュレクスの叡智
ユマテルの秘術……それらが原動力となって
ここに偉大なる王国が生まれた。
キュレクスの提言により新たなる国の名は
エテーネと定められた。それは異邦の言葉で
「永遠」を意味するという。